269 戸の窓を 「せーの」 でリフォーム
結露も寒さもないマンションライフに

朝日プラザ柏木
キービジュアル
真空ガラススペーシアって、実際どんなガラスなの?
窓を換えたら、結露も寒さも西日の暑さも防げるってホントかな
断熱リフォームって、どうやればいいんだろう…
そんな疑問や不安を解消する、全国の事例レポートをお届けします
結露と寒さに悩んできた大規模マンションが
全住戸の窓をスペーシアで断熱改修
「窓ガラスを換える前はとても寒くて、エアコンと足温器とガスストーブを一緒に使っていました。今はエアコン1台ですよ」
 仙台市の高台に建つ 10 階建マンションの一角。北西向きのこの住まいで、K さんは 17 年の歳月を過ごしています。真冬は外気温ー5℃近くまで下がることもある土地柄で、長年悩んできたのは “ 寒さと窓の結露 ” でした。
 「朝起きたらエアコンをポンとつけ、次に窓の結露を拭くんです」九州生まれで寒さが苦手な K さんは、エアコン・ガスストーブ・足温器の3つを同時に使い、室内移動時は電気ストーブを持ち歩いたといいます。はおりものを愛用しつつ、無理な我慢・節約はせずに終日暖房機器を稼働することで、3LDK の室内を暖かく保ってきました。
1987 年竣工、今年で築 30 年を迎える朝日プラザ柏木。鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート造の建物の 1 階には 10 の店舗も入る。住戸タイプは 30以上と豊富で、ファミリー層から子どもが巣立った高齢者まで多様な人々が居を構えている
同じマンション内のご近所も足しげく訪れるという K 邸のリビングダイニングで、お話をうかがった。奥に並ぶ和室と洋室とほぼ一室化し、ゆったりとした空間が広がる
 このマンションで、269 ある住戸を全部断熱改修しようとの話が持ち上がったのは 4 年前です。さまざまな課題をクリアし、ほぼ全世帯の窓がスペーシアに換えられました。「気づいたら結露はなくなり、ガス代もずいぶんお安くなった」と K さん。
 一見難しそうな “ 大規模マンション全棟の窓リフォーム ” は 2015 年、補助金の力も得て完了しました。その過程をのぞいてみましょう。
270 世帯を一度に工事なんて…でも大丈夫!
管理組合と施工者が力を合わせた
 『朝日プラザ柏木』は、1987 年竣工の 10 階建マンションです。南・西・東の3棟が連結する L 字型の建物は住戸の位置によって室内環境に違いがあったといいます。
 陽当たり良好で冬場も日中は暖房不要という南棟もあれば、東棟は午前中しか日差しが望めないなど状況はさまざま。その中でも多くの住民が感じていたのが、窓の結露と寒さ、それに伴う高い暖房費用でした。共用廊下に面した窓の結露が通路まで流れて夜のうちに凍り「朝の通勤・通学時は足下が危ない」という声もありました。
 「“ 窓を断熱ガラスに交換して全体の暖房費を下げよう ” との気運が高まったのは 2013 年」と、当時マンション管理組合の理事長を務めていた熊谷嘉晃さんは振り返ります。
 通常、マンションの窓はいわゆる “ 共用部 ” です。管理規約上では入居者独自で換えることはできず、個人で断熱するには内窓設置のみが可能。一方でマンション全体の共用部ととらえて一斉に変更すれば費用も修繕積立金をあてられるという方法があり、当初は検討されました。
 しかし熊谷さんは、自身の生業である建物内装の知識と経験から「複層ガラスの厚みでは今の窓枠に納まらない。枠ごと交換となれば、修繕積立金からの予算では足りないし…」と、半ばあきらめていたそうです。
南棟から西棟を望む。冬は奥羽山脈を越えた北西風にさらされ、春から夏は時によって海からのやませに吹かれる建物は、3 棟の接する箇所や階段部分でしばしば強い風が巻くという
 そんな折り、たまたま出席した管理組合連合会主催の講演会で、熊谷さんはスペーシアのカタログを目にします。一般的に 12mm 厚以上の複層ガラスに対し、スペーシアの厚みは約6mm 弱。「既存の窓枠に入る! これしかない、これで改修しよう」
 この朗報を持ち帰って管理組合理事会に諮ると、理事の面々は一も二もなく承認。資源エネルギー庁の説明会にそろって参加し、補助金申請態勢まで整え、管理組合総会では 3/4 以上の賛成を取りつけてついに改修が決まりました。
 直後の補助金申請はタッチの差で間に合わなかったものの第2次募集で無事採択され、全棟 268 戸(1 戸は辞退)に及ぶ壮大な窓リフォームが 2015 年 9 月に始まります。
集会室で、管理組合の新旧理事長と役員おふたりにお話をうかがった。左から現理事長の外門正直さん、防災担当で南棟に住む T さん、K さん、改修時に理事長を務めた熊谷嘉晃さん
269 世帯のうち 3/4 の賛成をスムーズにとりつけられたのは「共用部としての工事扱いにすることで、個人の金銭的負担がなかったからだと思います」と熊谷さん。集合住宅の大規模修繕が全国で増えていく時期を迎える現在、修繕積立金の使途を考える上で参考になるのではないだろうか
工事終了後、全住民に向けて実施されたアンケート調査でも、回答者の実に8割以上から
『住まい全体が暖かくなり、結露も消滅あるいは少なくなった』という感想が寄せられてい
ます。ガラス交換の際に行われた調整や清掃によって「窓の開け閉めや使い勝手がよくなっ
た」との声も同じく8割ありました。
玄関の明かり取り用すべり出し窓もスペーシアに交換。外壁下部が切れ落ちていて足がかりがないため、内側から施工した。「工事としてはここがいちばん難しかった」と宇和野さん
各戸の工事は半日足らず。居ながらスイスイ安全に
完了と同時に結露も寒さも消え失せた
 改修用に選ばれた真空ガラス『スペーシア』は、2 枚のガラスの間に 0.2mm の真空の層を設け、Low-E 膜とともに熱の伝わりを遮断する、高い断熱力を備えた機能ガラスです。
 通常の複層ガラスより薄くつくられ、単板ガラスが入っていた窓枠にそのままはめられるのも特長です。
 このガラスを携え、3 ヶ月に渡る工事に臨んだ日本板硝子東北(株)の宇和野光浩さんは、各住戸の窓の数を基本に工事計画に取り組みました。あらかじめ一軒一軒に施工候補日のチラシをポスティングし、その後の採寸と現地調査時に日程調整するなど、管理組合理事長の熊谷さんと一緒に “ 住まい手本位のきめ細やかな施工 ” を進めたのです。
 そんな姿を、住まい手の K さんは「スマートでかっこよかった」と目を細めます。「工事は半日もかからずスイスイと終わりました。ずっと家に居ましたが、本当になんでもありません」
今回の改修では、その薄さで既存の枠を生かしつつ窓の断熱性能を上げるというスペーシアの特長が存分に発揮された。ガラス部にはエコガラスマークの刻印のほか、利用した補助金を証明するステッカーも
取材に同席いただいた、仕事着も凛々しい日本板硝子東北の宇和野光浩さん。計画当初のスペーシア性能デモンストレーションから工事の指揮、補助金申請の書類作成等の各手続きまで、ガラスのプロとして常に理事会と伴走した牽引者だ
 K 邸の窓は 6 箇所。うち4つは高さ 1.8m 幅 1.7m の掃き出し窓で、開口面積は大きめといえるでしょう。
 そろいの制服に身を固めた窓のプロたちは、K 邸の窓を取りはずした後いったん部屋を出て共用部の非常階段へ。広いスペースで古いガラスをスペーシアへと入れ換え、部屋に戻って再度取付けました。
 ベランダや廊下での組立作業と比べて安全度がより高く「この場所があってよかったです」と宇和野さん。工事期間中は敷地内に現場事務所も設けられ、何かあればすぐに対応できる体制だった、とにっこりしました。
ふだんの暮らしでの K さんの居場所は、改修前も後もこのダイニング
テーブル。以前はベランダに続く北向き掃き出し窓からの冷気を、頭上
のエアコン・足温器・ガスストーブに囲まれる形でやりすごしていた
凍った結露が足下を危うくしていた共用廊下も、北に面した一部を除いて今は安全に歩けるように
工事が終わった室内で冬を迎えた K さんは「朝起きて、寒いと思わないんです。結露もなくなりました。暖房機器はエアコンだけ。一日中つけるのは変わりませんが、暖まるのが早くなった気がします。ガスストーブを使わなくなったのでガス代はゼロになりました」
 外出から帰ったときも寒い部屋とは感じず、室内で一枚はおることもなくなりました。工事前は冷気が気になり閉め切っていた和室の襖も今は常時開けており、66㎡の室内の暖房が1台のエアコンでまかなえています。
 「とにかく快適。こんなによくなるとは、実は思っていませんでした。みんながやるからやるという感じで」ちらりと本音を見せてくれた K さんは、工事後は同じ悩みを抱えていた友人に「いいよいいよ」と勧め、改修に至りましたよと笑いました。
ベッドの足下に北向き掃き出し窓のある寝室にはエアコンがない。改修後は寒さを感じず、すっと起きられるようになった
以前は寒さ対策で閉め切りだったという和室も、今はリビングダイニングとの間にある襖を常時開放している。しかし大きな掃き出し窓からの西日は今も厳しく、午後には薄いカーテンを引いて「入室しません(笑)」
玄関から廊下越しに、建具を開け放した寝室とリビングダイニングを見る。これだけの空間の暖房をリビングのエアコン 1 台がまかなっている
 K さんお気に入りの場所は窓辺のダイニングテーブルです。取材時は曇天でしたが、窓を通して標高 1175m の泉ヶ岳が望め、四季を通して美しい姿を楽しめるとのこと。まさにピクチャーウインドーといえるでしょう。
 外からの騒音も聞こえなくなったといいます。「平凡な暮らしを保護してくれる、これはいいガラスですよ」K さんの言葉に改めて、住まいの快適さとコストダウンが実現する豊かさと、その役割を担うスペーシアの力を思いました。
晴れていれば、街なみの向こうに泉ケ岳が見えるという。「このダイニングテーブルで書き物でもなんでもします」K さんお気に入りの居場所だ
取材日/ 2017 年9月8日
取材・文/二階幸恵
写真/中谷正人
取材協力/日本板硝子東北(株)
Data
立地 宮城県仙台市
住宅形態 SRC 造(一部 RC 造)10 階建マンション(1987 年竣工)
リフォーム工期 (全棟) 2015 年9月~ 12 月
リフォーム費用 (全棟) 約 8700 万円
利用した
補助金等
平成 26 年度 住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入促進事業費補助金
(既築住宅・建築物に置ける高性能建材導入促進事業)(補正予算に係るもの)